工場の搬送自動化に最適なAGV|今注目の『 QRグリッド式AGV』とは?

by Megumi Yamada

人手不足への対応のみならず、工場の生産性向上にも寄与する「工場内物流」の自動化における重要な選択肢とされるAGV実は現在『QRグリッド式AGV』が注目され、採用している工場が増加していることをご存知でしょうか 

本記事では、製造工場の搬送自動化を実現するAGVについて、誘導方式によって分類されるAGVの解説や工場の搬送自動化に最適な『QRグリッド式AGV』のメリット・背景について紹介します。

工場で活用されているAGVの種類


工場で活用されているAGVには、誘導方式によって大きく4つの種類があります。

  1. 磁気誘導式
  2. QRグリッド式(画像認識方式
  3. レーザー誘導式
  4. SLAM誘導式

日本産業車両協会が2022年に発表した調査によると、2021年に採用されたAGVの内、誘導方式が「磁気式」の割合は80%以上と、実はいまだに圧倒的多数を占めていることが分かります。その歴史は古く、誘導体となる磁気テープの敷設およびメンテナンスのコストはかかるものの、製品ラインナップの豊富さと、特定のポイント間の往復などシンプルな用途でのコストパフォーマンスと安定性の高さは大きなメリットです。 

QRグリッド式」は、床面にグリッド状に貼られたQRコードなどのマーカーを、AGVに装備したカメラで読み込むことで、自己位置を認識し走行します。画像認識方式とも呼ばれています。物流センターで数百台以上ものAGVが、商品が保管された棚を搬送しながら縦横無尽に走り回っている光景を、よく目にすることがあるかと思いますが、そこで採用されているのが『QRグリッド式AGV』です。『QRグリッド式AGV』はAmazonの物流倉庫で導入されたことで注目を集めました。

現在、工場内物流でこの『QRグリッド式AGV』が注目される理由は、これまで広く普及してきた磁気式AGVと比較した際の「利点」に他なりません。その背景には、工場内の搬送自動化に対する意識の変化と、別領域で技術が成熟した『QRグリッド式AGV』の再発見があったように思います。 

なぜ今AGV?工場内物流の価値が見直され自動化需要が拡大


工場は当然「製造」が主な役割で、価値のある製品を如何に効率よく、高い品質を保ちながら製造するかが重視されています。そのため、自ずと製造工程の加工・搬送自動化は価値の高いものとされ投資対象の中心となってきました。一方比較すると付加価値が低いものとされ投資対象となりづらかったのが、製造工程以外の物流でした。材料の入荷・保管や製造工程への供給、製造後の一時的な保管から出荷に伴う搬送作業は人手やフォークリフトによる作業が中心で、自動化が進んでいなかった分野です近年これらの工程をAGVなどを活用し自動化することが、実は人手不足の解消のみならず、工場全体の生産性を向上させる価値のあるものとして注目されるようになりました。 

工場でAGVを活用する際の注意点


しかし、搬送自動化の範囲が広がれば広がるほど、同時に稼働させなければならない自動機器の数が増え、設計も運用も複雑になります。如何にして簡素で汎用的なシステムを活用し、幅広い工程をカバーするかが、大きな課題として浮き彫りになりました。製造工程を中心に普及している磁気式AGVを利用した場合、経路が入り乱れる多数のルートに磁気テープを敷設したり、AGV同士の渋滞や衝突を避けつつ、生産性も担保するための複雑な上位システムが必要となり、導入や運用の難易度が格段に高まってしまう恐れがありました。

その問題に光明をもたらしたのが『QRグリッド式AGV』で、これまで物流センターを中心に培われた数百台のAGVを制御可能なシステムが、工場内物流でも大いに活かせるのではないかと注目されるようになり、実際に採用されるケースも増加しています。 

ここで重要になるのが、先に紹介したAGVの「誘導方式」だけではなく、「走行方式」と「制御ソフトウェア」です。具体的にその利点を確認してみましょう。 

『QRグリッド式AGV』のメリット


スペース効率が高い

一般的な磁気誘導式AGVは、決まった向きで荷物を積載したまま走行し、旋回する際にはアールを描きながら走行します。積載物を含めた旋回に必要な内径を考慮すると、AGV本体や積載物のサイズに対し、通路幅が広くなる傾向があります 
一方、QRグリッド式AGVは、旋回する際には積載物の向きはそのままに、AGV本体だけ回転させて方向転換することができます。これにより走行に必要なスペースを最小限にすることができます。この走行方式を活かすことで、通路幅最小限にできる他、特に保管を伴う自動化においてスペースを有効に利用することができます。

フリートコントロール(群制御)

一般的にコストパフォーマンスの高い磁気誘導式AGVは「1台につき1システム」の仕様です。経路が入り乱れる複雑なルートを走行させつつ、AGV同士の渋滞や衝突を避けるためには、用ケースに則した上位システムを都度組み上げる必要があり、安定した運用を実現するために、AGV本体や設置の費用を遥かに超えたシステムインテグレーションコストが必要となることもあります。 
QRグリッド式AGVの場合は、標準で百台以上のAGVを制御できるソフトウェアを備えており、保管や目的地などのロケーションや、グリッド間の走行条件(一方通行、通行禁止など)を設定するだけで、割り当てられたタスクを元に最適なルートを算出し、時にはルートを譲り合いながら、複数のAGVが同じエリアを走行します。 
この制御ソフトフェアに組み込まれた機能は、フリートコントロール(群制御)と呼ばれ、システムの煩雑さを避けながらも、幅広い工程をカバーするためには非常に有効な機能と言えます。

設置・メンテナンスコストを低減

自動化の対象が生産ラインの上流・下流に広がればAGVの走行距離が延びることはもちろん、その過程で一時的な保管を伴えば、保管地点の数だけAGVの目的地が増えることになります。敷設する磁気テープなどの誘導体が長くなるほどコストは増大し、複雑なルートを作成すると、走行しているAGVにより磁気テープが踏まれ、破損の可能性も高まるなどのリスクが生じます。 
QRグリッド式AGVの場合は、数センチ四方のQRコードを床面に貼るのみのため、設置のコストと手間は大幅に低減します。そのため、もしもレイアウトの変更などがある場合にも、容易に対応することが可能です。 

その他のメリット

QRコードは任意の間隔で設定できる

一般的なイメージとして、QRグリッドを構成するQRコードの設置間隔は一定である必要があるという誤解はないでしょうか。実はQRコードは仕様内であればセンチ単位で設定可能で、スペースの有効利用という観点からレイアウト設計上、非常に重要と言えます。 

1台故障しても他のAGVがタスクをカバーできる

磁気誘導式AGVをリレーする形でレイアウトした場合、万が一AGVが故障した場合にライン全体がストップしてしまう恐れがあります。一方、QRグリッド式AGVの場合、設定したルートをすべてのAGVが走行できるので、タスクを受け入れ可能なAGVがシームレスでカバーすることが可能です。 

<まとめ>工場の搬送自動化に最適なAGV

以上の利点から導き出せるのは、工場内物流の自動化のためにAGVの導入を検討する際、 

  • 搬送ルートが複数あり複雑 
  • 搬送に加えて一時保管が必要 

このようなケースにおいては生産有効面積を効率化できる「QRグリッド式AGV」の検討が視野に入ってくるということになります。当然メリットだけに目を向けるわけにはいきませんが、まずはそれぞれの世代のAGVの「誘導方式」のみに捉われず、実際の利用シーンを想定し、その「走行方式」と「制御ソフトウェア」についても正しく理解してから検討を始めることが肝要となります。 

何よりも重要なのは、工場の生産性を高めることです。現在注目されている「工場内物流」の自動化において、QRグリッド式AGVが有効であることをご紹介してきましたが、あくまで一例であり、まず諸条件が適合していなければなりません。本記事では、AGVの「誘導方式」「走行方式」「制御ソフトウェア」にフォーカスしましたが、その他にも搬送対象や路面状況などの各種条件に応じて、採用すべきAGVや周辺の自動機器の仕様は変わってきますので、自動化構想の初期の段階から正しく情報を収集することと、必要に応じて外部の識者に助言を仰ぐことをお勧めします。 

Mujinは、AGV専門の技術者だけではなく物流設計を担うチームを擁し、パートナー企業とともに、プランニングから施工・アフターサービスまで一貫して対応しております。お客様の現場の要望に応じて、時には磁気誘導式やSLAM誘導式AMRとの連携も含めたご提案も可能です。 工場でのAGV活用をご検討されている方は一度ご相談ください。

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